【レビュー】多様性はなぜ組織に必要なのか?『多様性の科学』

【レビュー】多様性はなぜ組織に必要なのか?『多様性の科学』 書評

多様性の時代、ダイバーシティーの推進――これからの時代、多様性が重要であることは間違いなさそうですが、そもそも多様性ってなぜ、何のために必要なのでしょうか?

この問いに明確に答えられる人は、意外に少ないのではないかと思います。

この多様性を科学的に解明しようとしたのが、今回レビューする『多様性の科学 画一的で凋落する組織、複数の視点で問題を解決する組織』です。

著者マシュー・サイド
発行年月日2021年6月25日
出版社株式会社ディスカバー・トゥエンティワン

すみれ的おすすめ度:★★★★★

ざっくりとした内容

著者によると、本書で取り上げられる多様性は大きく分けて次の2つ。

  • 人口統計学的多様性……性別、人種、年齢、階級、信仰などの違い
  • 認知的多様性……ものの見方や考え方が異なるもの

人口統計学的多様性が高ければ、認知的多様性も高くなる。多様性のある集団の反対にあるのは、画一的な集団。ものの見方が似ているため、盲点に気づけない。

ただし、当初は多様性があったはずの集団も、一緒にいるうちに考えが似通ってきて次第に同化していく可能性がある。

認知的多様性が高い状態を維持し、「反逆者の集団」であり続けることで、高い集合知が得られるということを理解しなければならない。

ただし、「反逆者の集団」であってもそのリーダーが支配的である場合は、多様な意見を抑圧してしまうので集合知が発揮されない。

今日のイノベーションは、アイデアの融合により起きるものがほとんどで、それは多様な意見やアイデアから生み出される。

人間の進化の過程においても、多様な個人が社会集団を形成して情報やアイデア、知恵を共有し、それらを連綿と引き継いできたことで、人は知能の高さを獲得できた。

ますます複雑化する世界のなかで、多様性を活かして集合知を発揮することは、組織にとっても社会にとっても大きな原動力になる。

読んでみてどう思ったか

たとえば、会社組織として、社内にいる若者や中途採用の人の意見を取り入れることが大事だといわれています。

それはわかっているものの、その人たちが長年会社にいる人に遠慮して意見を言えない、ということはよくあることです。

この本を読み、多様性が高く、それが反逆者の集団として機能する組織は、イノベーションが起こりやすいということが改めてわかりました。

そのためには、組織で多様な意見やアイデアが活発に交換されるような環境仕組みを整える必要がありそうです。

この本は、約370ページほどありますが、そのうち、抽象:具体が、2:8ぐらいの割合です

通常、抽象的な部分の方に期待を持ちがちですが、面白いのは8割の部分、具体的なエピソード部分である点が特徴的だなと思いました。

海外のビジネス書は分厚くて事例が多い。日本の書籍とは逆で、それも面白いですよね。

前段で抽象の部分を取り上げていますが、本の醍醐味はその具体的エピソードの方を読んではじめて味わえます。

特に印象に残っているのは、どちらも同じ章ですが、エベレスト登頂の大量遭難事件と、ユナイテッド航空の航空機墜落事故の悲劇的なエピソードです。

著者はイギリスタイムズ紙の第一級コラムリストというだけあり、非常に描写がリアルで、追いつめられていく様子がありありと描かれていて恐ろしいです。

事実を淡々と語りながら、なぜそうなってしまったのか? が多様性の観点から解き明かされていくのは痛快です。エピソード的には辛いのですが。

欲を言えば、多様性をうまく活かしている組織の業績が他社に比べて高いという調査やデータがもっとほしかったです。

ただ、それを差し引いて考えても、皆さんに読むことをおすすめしたい良書でした。

特にどんな方におすすめか

  • 活発な議論が交わされない会議に疑問を持っている方
  • 同質的な組織、集団のなかにいて、閉塞感を感じている方
  • 多様性はなぜ必要なのか? と聞かれて答えに詰まる方
  • どうすれば組織において多様性が発揮されるのか知りたい方
  • 多様性のない組織がどんな末路を辿るのか知りたい方

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