「小説を音楽にする」というコンセプトで活動するアーティスト、YOASOBI。
「夜に駆ける」で鮮烈なデビューを果たしてから、今も小説を音楽にして躍進を続けています。
本好きは誰しも、「その手があったかぁーー!!!」 と驚き、そして地団駄踏んだことでしょう。
メロス?
今回はそんなYOASOBIの楽曲の元になっている小説集をレビューします。
著者 | 星野舞夜、いしき蒼太、しなの、水上下波、橋爪駿輝 |
発行年月日 | 2021年9月19日 |
出版社 | 双葉文庫 |
すみれ的おすすめ度★★★★★
ざっくりとした内容
収録されている小説とそれに対応する曲は次の通り。
小説のタイトル | 曲名 |
「タナトスの誘惑」「夜に溶ける」 | 「夜に駆ける」 |
「夢の雫と星の花」 | 「あの夢をなぞって」 |
「たぶん」 | 「たぶん」 |
「世界の終わりと、さよならのうた」 | 「アンコール」 |
「それでもハッピーエンド」 | 「ハルジオン」 |
ご覧いただくとわかるとおり、音楽と曲のタイトルが同じなのは、「たぶん」のみです。
ストーリーのさわりを以下にまとめます。また、対応する曲をご紹介します。
- 星野舞夜「タナトスの誘惑」「夜に溶ける」…「さよなら」というLINEのメッセージでマンションの屋上に駆け上がる僕、飛び降りようとする彼女を引き止めようとするが、彼女は「死神さんが呼んでいるから」と言い出して…。
- いしき蒼太「夢の雫と星の花」…「好きだよ」ーー舞浜高校に通う16歳の双見楓は音見川の花火大会でクラスメイトの一宮亮から告白される予知夢を見た。双見家の女性はみな様々な形で未来を予知できるのだ。ただし、予知した未来を変えてしまったら予知能力を失うとされていて…。
- しなの「たぶん」…バン、ドン、ガン、ダン。一人暮らしの部屋に響く騒がしい音で目を覚ました。怖くて目が開けられない。以前同居していたあいつだろうか…。
- 水上下波「世界の終わりと、さよならのうた」…世界が終わるという終末宣言が発表されてから一年、明日この世界は滅ぶという。誰もいないはずの街で私が目を覚ますと、廃工場のような場所で、乱雑に置かれた楽器に囲まれていた。中心にあるグランドピアノに目をやったとき、突然若い男に声をかけられて…。
- 橋爪駿輝「それでも、ハッピーエンド」…美大生だったあなたと私。別々の会社に就職して、私はお金のために描きたくもない絵を描いて、激務で疲弊して鬱のようになった。家から出られなくなり、私たちはただの元恋人になった…。
YOASOBIも男女ユニットということもあってか、すべて男女一人ずつ出てくるストーリーという点が共通していました。
巻末には、YOASOBIのお二人へのインタビュー「小説が音楽になるまで」も収録されていて、どのような考えで作詞作曲されているのか、歌っているのか、を知ることができます。
読んで思ったこと
ありそうでなかった、小説を音楽にするというコンセプト。
映画やドラマのように、小説を映像化するというのはよくあります。
しかし、音楽にするときと、映像化するときとは全く別の変換が行われているように思います。
なぜなら、音楽にする場合、映像化するときと違って、「イメージと違った」ということが起こりにくいからです。
小説を映像化すると、役者さんがこの人のイメージじゃなかったとか、なぜストーリーの一部を改変してしまったのかなど、評価が二分することが多いです。
小説を読む時は、読み手の経験に基づき頭の中で情景を思い浮かべてます。その情景が人それぞれ違うので、映像化の場合はイメージと違うということが起きてしまうのでしょう。
小説の文字情報を映像化する場合の追加要素は多いです。台詞、俳優、シーンごとの情景などのビジュアルや、さらに、音楽が追加されます。
一方、音楽には、リズム、メロディ、ハーモニー、歌詞などの要素がありますが、情報量は映像より少ないです。
小説は文字情報のみで構成されており、音楽に変換する場合に形式的に対応するのはそれらの要素のうち歌詞だけです。
曲の長さは長くても5分くらいなので、歌詞の文字数は小説よりも圧倒的に少なくなります。
そのため、小説から歌にするには歌詞への言葉の凝縮が必要になってきます。コンポーザーのAyaseさんは、凝縮が見事で全く同じ言い回しはほとんど使わずに同じ世界観を表現されています。
もともと歌の歌詞は、文字数が少ないがゆえに、作曲者が詳細に説明しなと本当の意味はわかりません。
そういう意味では、原作の小説があると、小説を読んで曲を楽しめるし、曲を楽しんでさらに小説を深く理解できるし、という小説と音楽の行き来ができる点がおもしろいですね。
最後に、映像と小説だと、小説から映像にされることもあれば、逆に映像から小説にされることもあります。
ということは、YOASOBIも、小説から音楽だけでなく、先に音楽を創ってそれを小説にする、逆のパターンもできることになります。今後そのパターンも出てくるといいなと思います。
特にどんな人におすすめか
- 音楽は好きだが小説をあまり読んだことがない人
- 最近パートナーと破局した人
- 明日のことが想像できない人
- 本と音楽が、好きな人
なお、kindle版はこちらです。
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