星新一『きまぐれロボット』は、私が小学4年生ぐらいのときに、京都の街の本屋さんではじめてお小遣いで買った本でした。
今思い返してみても、はじめて自分の意思で買ったのがこの本でよかったと思います。それはなぜかを考えてみることで、星新一のすごさや本の面白さをお伝えできればと思います。
いまだにストーリーを覚えている
大人の皆さん、小学生の頃の記憶ってどのくらい覚えていますか?
読んだ本の作者名やタイトルで覚えているものはあるでしょうか。
私は、『きまぐれロボット』を読んだときから今まで、星新一の名前も、『きまぐれロボット』というキャッチ―なタイトルも、そしてストーリーも、忘れていません。
これってすごいことだと思います。
ずっと覚えているストーリーは1つだけなのですが、こんなお話だったと記憶しています。
ある博士の研究所に、強盗が入ってきました。博士を水もない家具だけの狭い部屋に閉じ込めて、金目の物をすべて盗み出しました。もう博士は生きていないだろう、証拠を消そうと1週間くらい経ってから強盗が戻ってきたら、なんとその博士はまだ生きていて…。
星新一は、「ショートショートの神様」と呼ばれています。どのストーリーも短くて一話完結です。でも、短い中にもアッと驚くオチがあって、一つ一つ楽しめます。
SFなので、小学生の私は想像力がかきたてられ、こんな風に自由に発想していいんだ! と子供ながらに感動しました。
クイズにできる
小説やミステリだと同じ本はめったに読み返しませんが、星新一の『きまぐれロボット』はめずらしくもう一度読んだことがあります。
それは高校生のときのこと、毎日満員電車に乗って、地元の友達と一緒に高校まで通うことになりました。
鞄も浮いて持たなくていいぐらいぎゅうぎゅう詰めの本格的な満員電車で、本も携帯も開くスペースは1ミリもありません。でも、口だけは動かせることに気づきました。
お互い本好きだったということもあり、本のストーリーをクイズにして出題し、オチを相手に考えてもらう、という遊びを友達と一緒に考案したのです。
そこで出題しやすかったのが、短いストーリーで爽快なオチがある、星新一とO・ヘンリーの本でした。
別の本を読んできて、毎日クイズを出し合いました。私たちしか話していなかったので、今から思うとそのとき一緒に乗っていた周りの会社員の方は全員聞いていただろうなと思います。
あるときは、話すスピードを間違えて、オチまでたどりつかずに電車を降りることもありました。周りで聞いてくれていた会社員の方は、「おーい! オチはどないしてーん!」と心の中でつっこんでいたと思います。申し訳ないことをしましたが、実際に本を読んで確認してすっきりしてくれていたらいいなと思います。
すごい遊びだね。
オチわかったら答えたくなったやろな。
大人でも子どもでも楽しめる
当時、私が買ったのは児童向けの本ではなく、角川から出ていた文庫本でした。
いつも小学校の図書館で借りる本とは違って、文庫本は「大人の読み物」という印象でした。
言葉遣いは子ども向けに書かれていたので読めたのは当然でした。でも、文庫本の形で読むことができたという経験は、大人の仲間入りができた気がして、「自分にとって難しそうに見える本でも、読書を続けられそうだ」という自信につながった記憶があります。
なぜこの本をはじめて自分で買う文庫本に選んだのか、今となっては全く覚えていません。でも、この読書体験は本好きの私の原体験だと思っています。
星新一のショートショートは、大人も子どもも楽しめます。お子さんがいらっしゃる方はぜひお子さんに勧めてみてください。そして、一緒に読んでいただきたいです。
コメント